日本エレクトロヒートセンター

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内山会長(2050CN社会を目指して)

  2050年カーボンニュートラル社会を目指して

 

          内山洋司 一般社団法人 日本エレクトロヒートセンター会長(筑波大学名誉教授)

 

  昨年は新型コロナウィルスに全世界が振り回された1年だった。三密を避けてマスクを着用するなど
 感染対策が徹底され、ワクチンの開発もあってパニックにはならない状況にはなってはきたが、感染者
 数は相変わらず増加している。今年はオリンピック・パラリンピックの年、祭典を祝うためにもなんと
 しても収束してほしい。
 
 世界的な危機として地球温暖化も大きく取り上げられた。菅義偉首相は所信表明で2050年までに
カーボンニュートラルを目指す方針を示した。気候変動問題は、人類共通の危機であり、世界でも先進
を中心に2050年を目途に脱炭素社会を目指している。日本もそれに乗り遅れないようにと打ち出し
た政策だ。世界の潮流に合わせて、産業界にイノベーションを日本から興すよう支援していくという。
  脱炭素化に向けた具体的な対策として、エネルギー転換、産業、運輸、業務、家庭の各部門において
 省エネのさらなる強化、再エネの主力電源化、それに電力化と水素化を促進し、化石燃料からの脱却が
 難しい製造業についてはCO2の回収・貯留やカーボンリサイクルを活用していくという。
 
 社会で利用しているエネルギーはすべてが熱と言っても過言ではない。熱は、発電、産業用プロセス熱、
自動車用動力、暖房・給湯など産業の発展や人々の生活を守っていく基本となるエネルギー源である。
 その熱生産の大半が化石燃料に依存しており化石燃料からの脱却は容易なことではない。脱炭素とは
化石燃料を再エネと原子力に置き換えることであり、もし化石燃料を使うならばCO2の回収・貯留や
カーボンリサイクルでカーボンニュートラルにしなければならない。
 
 化石燃料以外で熱を造る方法は水素と電気による方法がある。しかし、水素と電気は二次エネルギー
であるために、一次エネルギーによって生産されなければならない。一次エネルギーが化石燃料であれば
脱炭素にはならず、再エネか原子力を使うしかない。
 水素は、発電用燃料だけでなく都市ガスの代替燃料、燃料電池車、また水素還元製鉄など様々な用途に
利用できる。水素の安価な製造は原子力か、再エネであれば大量生産でコストダウンを図る必要がある。
 日本での再エネ導入には土地制約が大きすぎて量産化が難しい。国際競争力を高めるには、量産化でき
る国との技術協力が必要になる。オーストラリアなどの広大な遊休地や砂漠を利用して大量導入すれば
コストダウンが図れる。
 国家間プロジェクトで大規模な太陽光発電を設置し、そこで水電解により水素を生産する。資金は水素
を利用する電力、ガス、鉄鋼、自動車などの企業が拠出し、政府は国家間の交渉で、また金融機関も参加
してプロジェクトを支援する。量産化で安価になった太陽光発電は、日本国内にも活用でき、海外から
技術を輸入しなくても済む。
 
 一方で社会の電力化も必要になる。政府は脱炭素化によって国内経済を活性し雇用を拡大することで
経済と環境の好循環を図ろうとしている。日本のGDPと雇用の7割以上がサービス産業に依存しているが、
労働生産性をいかに高めるかが喫緊の課題となっている。電気は、社会にイノベーションを創出する可能性
があるエネルギーである。
 カーボンナノファイバーなど新素材、ロボット、電子・情報、電気加熱などの技術進歩に電気は不可欠で、
多品種少量生産の省エネ型産業が創出できる。ライフサイエンス分野でも電気を使う医療機器や新薬の
製造が進んでいる。加熱、暖房、給湯、調理など熱利用分野にも、ヒートポンプや赤外線加熱、IH調理器
など新しい電気製品が普及している。
 輸送機関にも、リニアモータ、プライミング・ハイブリット、燃料電池車、そして電気自動車の普及が
始まっている。電力化による温暖化対策は、人工知能やIoTなどデジタル・トランスフォーメーション(DX)
の発展と共に産業の生産性を向上する新しいイノベーション分野である。
 
  *本記事は、「熱産業経済新聞[令和3年新春特別号]有識者からの新春提言」に掲載されたものです。