エレクトロヒート No.174
【巻頭言】
【特集】誘導加熱システム(電気加熱特集I)
谷野 守彦
高周波熱錬株式会社
技術本部 技術部 担当部長
誘導加熱に関してほとんど知らない読者を対象にして述べていく基礎知識概論とした。まずはじめに誘導加熱の原理を述べる。電気的には電磁誘導現象の説明と、発熱のもととなる「電流の浸透深さδ」について述べ、また伝熱の説明として熱伝導のオーダー、均熱加熱時の具体的計算例を上げて述べた。昇温曲線、温度分布はわかりやすいようグラフを添付した。発熱・伝熱の技術的基礎を説明した後、誘導加熱の特長「非接触」「内部発熱」「局部発熱」「急速加熱」から導かれるメリット・効果などを実際の用途例に交えながら説明した。
土斐崎 哲嗣
東芝三菱電機産業システム株式会社
システム技術第一部 圧延技術第一課 技術主査
近年の熱間圧延ラインでは、熱間厚板(粗バー)を仕上げ圧延機入り側で昇温均熱させる誘導加熱装置の導入が進んでいる。誘導加熱装置は、厚板全体を加熱するバーヒータと、厚板のエッジ部分を加熱するバーヒータより構成されている。2セットー9000kWー1400Hzソレノイドタイプのバーヒータは、厚板全体温度を40℃昇温させる。その後段の2セットー2200kWー300HzのCタイプのエッジヒータは、厚板のエッジ部分を約100℃昇温させる。誘導加熱装置導入により、高級自動車用鋼板、抗張力鋼、ステンレス鋼、電磁鋼板の安定した圧延が可能になり、材料の生産量および歩留まりが向上した。
藤田 満
富士電機サーモシステムズ株式会社
開発部 部長
本論文では汎用高周波電源の紹介とそれを用いた応用装置として、過熱蒸気発生装置とIH式アルミ保持炉について述べる。汎用電源は2.5〜20kWがラインナップしている。コンパクト、風冷、低価格の特長がある。過熱蒸気発生装置は水からワンスルーで、450℃の蒸気を効率95%で生成できる。過熱蒸気を使う機器に隣接したり、内蔵できる。IH式アルミ保持炉は省エネルギー、作業環境の改善、運転性の向上が可能でガス燃焼式に比べ、一次エネルギーが1/2、CO2排出量が1/3となる。
飯野 仁司
富士電波工機株式会社
第二機器部 試験装置課 課長
誘導加熱システムというテーマ及び仮題から最新の事例を紹介するべきところであるが、難しい応用例を紹介するには未だ解決していない問題もある為、実際に弊社での高周波誘導加熱方式での材料試験装置で可能な試験内容と、標準的な装置での各種試験片について手元にある装置の開発資料や実績データを参考に加熱事例を紹介した。
金田 弘明
日電高周波株式会社
技術部 電気設計課 課長
乗用車には、横からの衝撃に対して運転者及び同乗者の安全保護のために、各ドアの内部に、通称「ドアインパクトビーム」と云われている鋼管(高張力1500N/mm2)が装備されている。この鋼管は、高周波電縫管溶接法で製作し、高周波誘導加熱方式により焼入を行い、1500N/mm2程度の高張力を得ている。
しかし処理量が多い事と原価低減のために、高速度焼入処理が求められていた。そこで高速度焼入の障害を取り除き毎秒300mmの焼入速度を実現したが、その障害となった要因と解決方法について説明する。また上記焼入用には出力500KWの電圧共振型インバータ方式の半導体式発振器を使用しているが、電流共振型半導体式発振器との比較・特徴についても説明する。
阿尾 高広
三井造船株式会社
機械・システム事業本部 機械工場
パワーエレクトロニクス設計部 課長補佐
誘導加熱は、電気を使用した直接加熱のため制御性が良く、大電流による高温での急速加熱が可能で、自動車、鉄鋼、非鉄金属加工等の加熱装置として産業界に広く利用され、近年では新分野として液晶・半導体分野にも利用されている。
クランクシャフト鍛造には非常に大きい材料が使用され、鍛造前加熱装置には一般的なビレットヒータに比べて頑丈で信頼性の高い搬送装置が求められる。また使用される電力が非常に大きいため、省エネや省力、省メンテに配慮した設計も重要になる。当社ではそれらニーズに応える大型ビレットヒータを製作したので紹介する。
半導体分野で誘導加熱が使用される場合、用途上被加熱材はほぼ静止した状態で加熱される。そのため移動加熱を採用している鍛造前加熱とは異なり、より高精度な加熱温度分布制御を必要とされる。従来のインバータでは運転制御上の問題があり実現できなかったが、当社では相互誘導下で安定制御できる新技術(ゾーンコントロールと呼ぶ)により広範な加熱ニーズに対応可能な極めて高度な加熱温度制御を実現したので事例紹介する。
長 伸朗
中部電力株式会社
エネルギー応用研究所
都市・産業技術グループ 研究副主査
化学・食品工場の合成や蒸留などの加熱工程を対象に、IH式の反応釜を開発した。従来使用されていた引火性のある熱媒油や溶融塩を使用せず、防爆構造を採用しているため、非常に安全性が高い。また、従来の熱媒方式はボイラ・ポンプ・膨張タンク等の多数の設備で構成されているのに対して、本IH反応釜は電源と反応釜のみで構成されるため、省スペース・省メンテナンスである。ここでは、開発した防爆型IH反応釜の概要を、適用用途をまじえて紹介する。
内堀 義隆
瀬田興産化工株式会社
工場長
従来の誘導加熱は金属などの被加熱物を直接加熱する利用方法であったが、近年の誘導加熱では更に液体や気体などの流体を加熱する利用方法に発展しつつある。
また、気体加熱の中でも特に注目されているのが、飽和水蒸気を加熱して更に温度を上げて利用する過熱水蒸気の利用である。過熱水蒸気は主に食品業界では応用例が進んでおり、工業や温浴・医療業界への展開も一部進んでいる。
今回の報告では幾種類もある流体加熱の方法を紹介し、海外では見られない誘導加熱の流体加熱及び過熱水蒸気の利用について言及する。
石間 勉
島田理化工業株式会社
産業IH製造部 部長
工業用の薄板加熱は、その利用目的、材質、サイズの多様化が進み、需要が拡大している。特に、薄板ロール形状は工業用の中間材料として幅広い分野で使われている。材料面で、金属薄板やカーボンシートなどは誘導加熱(IH)が可能であり、工場設備の省エネ・省力・小型化が実現できる。しかし薄板ワークの両サイドが過加熱されるというIH特有の問題があり、応用範囲が限られていた。
この課題を解決するため、新技術により薄板ワークの両サイドの磁界を弱め、均一加熱を可能にした。従来のトランスバース方式コイルに独立した補正コイルを設け、両サイドの磁界強度を抑えて均一加熱する。補正コイルをスライドさせることによりワーク幅の大小にも対応可能である。薄板の発熱分布をシミュレーションで計算し、本装置による加熱温度を実測して温度均一性を検証した。
改良型トランスバース方式コイルにより薄板加熱の応用範囲が広がり、特に、カーボンシートやアルミなど新用途の非磁性薄板の加熱が可能となった。
【ヒートポンプ給湯講座】
【特別寄稿】
浦井 弘充
トクデン株式会社
東京営業所 所長代理
誘導発熱ジャケットロールは、その高い均温性により、加熱ロールとしてさまざまな熱処理工程に使用されている。加熱方式は誘導加熱でありロールが自己発熱することで素早く昇温でき、安定した温度制御が可能であるが、その一方、冷却については自然放冷であり冷却能力は低く、冷却を必要とする用途向けにはなかなか採用が難しかった。このたびミストを冷媒とすることにより冷却も可能となったミスト冷却機能付誘導発熱ジャケットロールを開発したので紹介する。
井川 博
三菱電機株式会社
長崎製作所 冷熱営業課
ナス栽培用ビニルハウスにおいて、重油炊きボイラを利用した温水循環方式の加温システムに空冷式ヒートポンプチラーを導入した事例を紹介する。今回の事例により、燃焼式から電気式への熱源転換において、農事用途に特有な制約事項が明確になった。出湯温度、搬入経路、電力契約に関する内容から導入のための支援制度まで、熱源転換を推進するために今後取り組むべき課題を整理した。
清川 晋
ナサコア株式会社
代表取締役 工学博士
廣瀬 治男
日本工業大学
名誉教授 工学博士
40年以上に亘り床暖房用ヒーターの製造と施工の実際の経験を基にようやく蓄熱式床暖房の究極の姿を実現するこが出来たように感じている。これはURのご協力のもとに東京電力との共同実験結果を丹念に調査検討することで得られた結論であり、その内容をここに紹介して関係者の参考に供したいと考える。究極とはまさにエコそのものであり、安全で健康的な暖房であることを指す。本文は床暖房の歴史に始まり、温水式との比較、潜熱蓄熱材の活用、皇居新宮殿のような大空間、開放空間、小空間の床暖房などに対する有用な基本的設計指針、さらにPTCヒーターの安全上欠くことの出来ない特性について前稿を再度引用して関係者に注意を促した。最後に潜熱蓄熱材の、単なる断熱材(高気密・高断熱)がなしえない効果をサーモカメラの映像を使い、冬季は(発熱)・夏季は(吸熱)し快適温度範囲を自ら創りだす挙動「室温の恒温化」の実現を一目瞭然の形で提示した。
【会員紹介】
松田 勇
株式会社タイチク
取締役 副事業本部長
当社は三菱電機株式会社における誘導炉、誘導加熱装置製作協力会社としての発足が端緒である。
以来、誘導炉、誘導加熱装置製造に関する技術・技能の蓄積を行い、今日においては装置全体の設計・製作・保守・メンテナンスの一貫生産体制を構築している。
また、当社は我が国では金属の加熱から溶解までの誘導加熱装置を製造する唯一のメーカーとして躍進を続けている。